技術とデザイン、ものづくりの未来
雨や風、雪など自然の脅威から住宅を守る施工をする仕事、建設板金業。
別名「雨仕舞い」ともいわれるその技術を活かし、「家具」という新たな領域に一歩踏み出した企業が山口県柳井市にあります。
外から内へ。有限会社森元の新ブランド「Fulcrum(フルクラム)」誕生のきっかけに、ものづくりの未来を見据える2人がいました。
有限会社森元は、1987年創業の建設板金業を営む会社。薄い金属板を加工し、屋根や外壁など建築物に使われる金属部品の製造・取り付けを行っています。
インテリアブランド「Fulcrum(フルクラム)」を立ち上げたのは、創業者 森元信行さんの息子である太輝陽(たいきよう)さん。
神戸市にある美術大学のプロダクトデザイン学科にて木工を主に学び、2018年に大学院を卒業した後はシェア工房で家具や小物製作の仕事をしていました。
元々、会社を継ぐ意思を持っていましたが、美術大学での勉強やシェア工房での仕事を通して、「オーダーで決められたものを作るのではなく、自分でブランドを持ちたい」と考えたことが、Fulcrum立ち上げのきっかけ。
製品の板金部分の加工や受注管理、instagramの投稿を務める準弓(のりみ)さんも、太輝陽さんと同じ大学出身。太輝陽さんからブランドの話を聞いた際は、「会社を継ぎながら、自分のやりたいことも実現できる。いい方法を見つけたなぁと思いました」と笑います。
2020年に製品の開発を始め、2022年から展示会への出品など本格的に動き始めたFulcrum。
ブランドとして、どんなメッセージを伝えていきたいかお二人にお聞きすると、「製造業が新たにブランドを持つことで生まれる可能性を発信したい。そのモデルとなる企業になっていけたら」と準弓さんが答えます。
太輝陽さんも「デザインすることの重要性を発信したくて。鉄が折れるという技術だけだったら類似のものはいくらでも作れるけど、そうではなくて。請負の技術を自分発信に変えるときに、『自分たちのブランドである』と自信が持てるプロダクトを世に出すことに意味があると考えています」と続きます。
ブランド名のFulcrumは、英語で「支点」の意味。板金加工の1つに、支点を中心に金属板を折る方法があり、「会社を支えるブランドになってほしい」という想いが込められています。
技術にプライドを持ち、デザインの力で価値あるものとして昇華する。
Fulcrumの在り方は、日本のものづくりの1つの可能性を示しています。
神戸の美術大学でプロダクトデザインを学んだ太輝陽さんと準弓さん。現在は森元の社員として、Fulcrumの運営だけでなく、建設板金業の仕事もしています。
太輝陽さんはお父さんと共に取付工事など施工業に参加、準弓さんは板金加工に用いる機械操作の勉強中。森元で創業初期から働いている藤本智恵美さんが親身になって教えています。
準弓さんと共に、製品の板金加工を担当しているのも藤本さん。
試作段階から携わっているのですが、実はブランドの存在をしっかり知ったのは試作が始まって1年経ってから。
しばらくは神戸にいる太輝陽さんから板金部分の図面のみが送られ、自社ブランドの製品とは露知らず、製造を続けていました。
太輝陽さんが柳井に戻ってきた際に、工場に置かれたFulcrumのスツールを見て「いいね、これ、かっこいいね」と声をかけると「智恵美ちゃん、いつもこれ作っとるんよ」と言われたことで、ようやく気づいたとか。
Fulcrumの話を聞いてどう思いましたか?と藤本さんに尋ねると「普段の業務とは別のものを、この工場を使って作るっていうのが、すごい考えでやってくれるなぁって。全く違う何かの企画に参加するのかなとか思ってたから。…なかなかちょっと難しいんですけど笑」とお茶目に答えます。
それもそのはず。建築部材は、工事中に職人さんが状況に合わせて切断や角度を合わせるといった微調整をしますが、家具となると初めからミリ単位で寸法が決まっています。それを同じ機械で作り上げているというのですから驚きです。
屋外で使用される建築物ではなく、屋内で人の手に触れる家具を作っている。
そう知ってからは更に、繊細な作業を心がけるようになったといいます。
商品の企画や木部の研磨、最後の組み上げを太輝陽さんが行い、準弓さんと藤本さんが板金部の加工を担当。時には、太輝陽さんのお母さんである森元早苗さんも作業に加わります。
家族で、会社で、培った技術を育み生まれたブランド、Fulcrum。
森元のおおらかでやさしい雰囲気が、製品にも漂っています。
製造業の可能性を見出すブランドになれるように。会社を支えるブランドになれるように。
その思いから、Fulcrum製品の板金部分は、森元の工場が持つ機械で加工が完結できるよう、デザインされています。
製品を作る上で心がけたことは「板金と聞くと無骨で雑多なイメージがあると思うんですけど、そういった要素は入れたくないなと。空間に入れたときに主張しすぎず、すっと溶け込むものが作りたいと思っていました」と話す太輝陽さん。
いずれも家具デザイナーの池内宏行さんが携わっており、板金の持つ鋭さやきらめきと、木の持つ温もりが同居するデザインになっています。
現在、販売している製品はstool(スツール)、hi-stool(ハイスツール)、bench(ベンチ)の3アイテムからなる「Hi.series」と、Baguette shelh(シェルフ)の計4アイテム。
「Hi.series」のhi-stoolとbenchは、JIS規格に基づく試験にて区分4の強度・耐久性を持っており、オフィスやレストランといった公共施設にて使用が可能です。組み立ての家具でこの試験を通過することは極めて珍しく、池内さんのデザイン力と、森元の技術力の高さが伺えます。
今回、にほんコッソリ良品店で販売するのは「Hi.series」のstool。
座面は木部によってなめらかになっており、高さも44cmとつい腰掛けたくなるような安心感があります。
板金、ということで重いイメージを持っていたのですが、片手でひょいと持てるくらい軽く、室内の至るところに置けそうです。心地よい季節に、ちょっとベランダに持ち出して夜風に当たる…そんな素敵なおうち時間を過ごしてみるのもいいかもしれません。
「Hi.series」の板金の色は通常、copper/old nevy/mellow whiteと全部で3種類ですが、今回は特別に、にほんコッソリ良品店でのみ購入することができる限定カラー「calm blue(カームブルー)」を制作していただきました。
太輝陽さん曰く、「Fulcrumが誕生した山口県柳井市は、瀬戸内海に面し、おだやかな気候、自然豊かな風土に恵まれた伝統が息づくまち。
白壁の町並みには、江戸時代の商屋の家並みが今もなお残っており、柳井の歴史を物語っています。日照時間が長く太陽に恵まれたまち柳井には、青空の下、穏やかで美しく漂う瀬戸内の海と、白壁の町並みが美しく調和しています。
そんな柳井の風景からイメージしたカラーを「こっそり良品店」限定カラーとしてご用意しました。」とのこと。
軽やかな淡い青が印象的な「calm blue」、お部屋にまで柳井の風が吹き渡るような心地になる、素敵なカラーリングです。
山口県東部に位置する柳井市。瀬戸内海に拓けており、愛媛県松山市とつなぐフェリーが運行しています。
地名の由来は飛鳥時代にまで遡ります。現在の大分県である豊後国(ぶんごのくに)の般若姫が、後の用明天皇(聖徳太子の父)である橘豊日皇子(たちばなのとよひのみこ)に召されて上京。その道中でこの土地に立ち寄り、飲んだ水がとても美味しかったため、お礼に不老長寿の楊枝を井戸に挿したところ、一夜にして大きな柳の木になった。という伝説から、「柳井」という地名になったようです。
室町時代から港町として商業が盛んになり、江戸時代には「岩国吉川藩の御納戸」と呼ばれるほどに。各地との交易の結果、生まれた文化のひとつに「金魚ちょうちん」が挙げられます。
幕末の頃、柳井の商人が津軽藩(青森県)を訪れた際に「金魚ねぷた」を知り、子どもたちのために作ったことが始まり。柳井伝統の織物「柳井縞(やないじま)」の染料を用いて染められた、赤と白の鮮やかな胴体と、ぱっちりと開かれた黒い目が特徴です。
また、柳井市を代表する観光スポットが「白壁の町並み」。江戸時代に大火が続き、火災に強い土蔵様式に建て替えたことから、美しい漆喰の白壁が続く町並みが生まれました。
毎年8月には「金魚ちょうちん祭」が行われ、JR柳井駅から白壁の町並みの一帯を中心に、数千個の金魚ちょうちんが飾られます。金魚ちょうちんの赤と白壁のコントラストは美しく、夜になると提灯が灯され、昼とは違う幻想的な景色が広がります。
「Hiシリーズの由来って、実は3つあるんです」とコッソリ教えてくれたのは準弓さん。
デザインを手がけた池内宏行さんのイニシャル、Fulcrumの最初のシリーズであることから、あいさつの意味を込めた「Hi」、そして板金がチラッと顔をのぞかせるように見えることから「Hiシリーズ」という名前になりました。
Fulcrumのロゴの「F」と「l」に注目して見てみると、角の外側は丸く、内側は鋭くなっているのですが、実はこちらも板金を曲げた際の特徴を表現しています。細やかなこだわりに脱帽です。
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