教育の場を見つめ続けた、北海道の家具メーカーが新たに見つめるもの。
「教室の椅子」と聞いて、多くの人が思い浮かべるであろう「木の背もたれに鉄の脚でできた椅子」
全国で初めて、学校用に鉄と木で出来た椅子を製造した家具メーカー「株式会社イチムラ」が、新しいインテリアブランドを2022年に立ち上げました。
北海道の教育環境を支えてきた家具・什器メーカーの新たな挑戦。その思いを取締役の市村さんと、開発担当の佐藤さんにお聞きしました。
株式会社イチムラは、北海道江別市に本社を持つ創業70年目の老舗家具・什器メーカー。主に学校で使われている机や椅子の製造を手掛けており、北海道の学校に通ったほとんどの人はイチムラの製品を使用していると言っても過言ではありません。
そんな確固たる実績を持つイチムラが新たに立ち上げたのは、私たち生活者向けのインテリアブランド「deFt」
ブランド名の「deFt」は「器用な、腕の良い、巧みな」といった意味の英単語「deft」が由来。町工場からひとつひとつ、丁寧に製品を届けるという意味が込められています。
「学校などのパブリックな場所だけではなくて、実際に手に取ってイチムラの技術を知ってもらいたい、というのがブランド立ち上げの発端でした」と取締役の市村さんは話します。
ダイニングチェアやワークデスクといった家具メーカーならではの製品だけでなく、フラワーベースやブックスタンドなど、これまで製造したことがないインテリアにも挑戦。
重厚な鉄のイメージを覆す、紙のように軽やかな印象を与える製品や、洗練されたデザインには開発担当を務める佐藤さんの”ものづくりをする人”と”それを受け取る人々”への深い思いが込められています。
「deFtの製品は、最終的には人の手が加わっていて手作りなんです。社外の人には、『もっと大量に作って、100均で売ったら?』と言われたこともありますが、目指したいのはそういうことではなくて。素材そのものの価値を底上げしていくことで、町工場の人たちにも還元できるようにしていきたいんです」
「仙台で販売をした際に、フラワーベースを買ってくださったお客様が、『コロナ禍で家族になかなか会えなくて、この先どうなるんだろうなと不安だった時に、緑があるだけですごく励まされた』と話してくれて。とても嬉しかったですし、これからもそんな風に、人の気持ちに寄り添える商品でありたいな、と思っています」
長い歴史の中で、鉄という素材を見つめてきたからこそ生み出される「deFt」の製品たち。
イチムラの歩んだ道のりから製品の魅力まで、たっぷり紹介します。
元々はストーブやジンギスカン鍋など鋳物製品や、トラック用の自動車部材を製造していたイチムラ。鉄パイプの加工技術を持っていたことから、その技術を活かして学校家具を作り始めました。
一方、当時の学校では木製の机椅子が主流で、寸法も大・中・小の3段階と戦前のまま。耐久性は低く、とても重かったのだとか。北海道の学校からの修理要請や悩みの声をきっかけに、イチムラは新しい学校用の椅子づくりを決意します。
鉄パイプの品質が向上し、曲げても破損が少なくなったことから、専用の機械を開発。フレーム作りに成功したことによって、全国初の鉄と木で作られた学校椅子が誕生しました。木製の椅子と比べてはるかに軽い椅子は大きな人気を博し、道外にも広がっていきました。
やがて、文部科学省からも「今の木製椅子は人間工学的にも生徒の成長を阻害し、近視や猫背に繋がる」という結論が出され、1970年に学校家具のJIS規格が制定。
全国に240社ほどあった学校家具メーカーはこのJIS規格に合わせた製品の製造を開始しましたが、品質や社内体制の欠陥を理由に撤退。
学校家具に携わるメーカーはイチムラを含め、7社のみとなりました。
学校用椅子を完成させた1962年から約60年、イチムラは”生涯学習”を掲げ、変わりゆく教育環境を陰ながら支え続けています。
「学校に限らず児童館や図書館、博物館など知識を吸収するあらゆる場所をサポートできる不変的な強さをイチムラは持っています。deFtは、そこから全く離れてしまうのではなく、学校用製品を作る中で育まれた技術を元に、安心安全で長く使ってもらえるものを届けたいと思っています」と話す市村さん。
培った歴史に対する誇りと、それを元に始まるイチムラの新しい歴史に、これからも注目です。
deFtが作るインテリアは、「鉄」の重厚なイメージから離れ、軽やかでシンプルなデザインが印象的。どんなお部屋にも馴染む洗練さと、素材の特性を熟知した職人による細部のこだわりが光ります。
コッソリ良品店で発売するのは、Vase [Square-縦][glass_2]。
Vaseは「一輪挿し」のシリーズで、「一輪でもステキに、そして簡単にカッコよく」がコンセプト。白い縦長の長方形フレームの中にグラスが2本あり、両方はもちろん、1つのグラスに挿しても美しくお花を飾ることができます。
リボンやレース、ライトを使って自分好みに飾り付けをするのも楽しみ方の1つ。鉄製のためマグネットも使用可能で、写真やメッセージカードを飾ることができます。
マグネットを使用した飾り方を思いついたのは佐藤さん。「お花を頂いた際にメッセージカードをもらうこともあるのですが、ちゃんと取っておきたいのに保管場所に困ってしまうこともあって。フラワーベースと一緒に飾れたら素敵だな、と思ったのがきっかけです」とのこと。
公共の場で、たくさんの人が触れる家具たちを作ってきたイチムラですが、deFtでは、ひとりひとりが過ごす日常のささやかな視点が、デザインに落とし込まれています。
フレームを支えるスタンドは木製。鉄の洗練とした雰囲気に木が調和することで、温もりや馴染みやすさをもたらしています。
木材は時間経過と共に痩せていき、ガタつきの原因になるのですが、deFtのフラワーベースは歪みを考慮した造りになっており、何十年と使ってもガタつくことはなく、変わっていく木の色合いを楽しむことができます。
「1輪の花さえあれば、部屋のどこかにしまう事なく1年中使えることを目指しました。使いこめば使いこむほど、良い色味になっていくと思うので、長く使ってもらえたら嬉しいですね」
株式会社イチムラの本社がある北海道江別市。
名前の由来は定かではありませんが、アイヌ語で”サメのいる川”を意味する「ユベオツ」や、”大事な場所への入口”という意味の「イブツ」が語源とされています。
明治4年、宮城県から76人の農民が開拓のためにやってきたのが始まりで、 明治11年には屯田兵56人が移住。同年には江別村と名付けられ、その後各地から訪れた屯田兵により開拓が進んでいきました。
明治~大正時代の江別市を支えたのが「レンガ」
レンガに適した粘土が野幌丘陵地で採集できたこと、石狩川によってレンガの消費地である札幌や小樽への舟運が可能であったこと、夕張鉄道を使ってレンガ作りに必要な石炭を運搬できたことなど様々な要素が絡み合い、江別市は「レンガの町」と呼ばれるまでに発展しました。
その後、関東大震災によりレンガの耐震性への不安から需要が下がり、多くの工場が廃業となりましたが、今でもその歴史は途絶えず、江別市はレンガ生産量日本1位を誇ります。
現在は、野幌丘陵や石狩川がもたらす豊かな自然と寄り添いながら、札幌市への交通アクセスの良さを生かした手厚い子育て支援により、人口の社会増を果たしています。
レンガの町に出来た、鉄と木の工場を持つイチムラ。今もなお、江別市はさまざまな素材が人々の暮らしと共に生きています。
佐藤さんにフラワーベースの魅力を聞いてみると、「陰影がとても綺麗な商品なので、背景を整えるとさらに映える商品だと思います」とコッソリ。シンプルで丈夫だからこそ、その人ならではの使い方が見えてくるフラワーベース。どんな風に楽しむか、あれこれ考えるのも楽しいですね。
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